映画「おくりびと」感想文~故人を送るという儀式について~

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映画「おくりびと」を観た。少し感想を書いておきたい。

人が死んだ後、身内、親しい友人が故人を送る儀式が「葬儀」であり、その葬儀に欠かせない仕事をするのが葬儀社、そして、本木雅弘が演じていた「納棺師」だ。

納棺師の仕事は、故人の身体を清め、死に装束を着せて棺にきっちりと納めること。故人が女性ならば、死化粧さえも。

さて、これを聞いて、あなたは何を思うだろうか。

恐ろしい、と思うだろうか。
穢(けが)らわしい、と感じるだろうか。
自分には出来ない、と震えるだろうか。

実際にそういうシーンがこの映画の中には出てくる。彼の妻や友人が、この「納棺師」を見下げ、情けないと思っていることがありありとわかる言動をとるシーンが。この差別は、「死」が穢れだという思いが強いからなのかもしれない。

個人的には職業に貴賎はないと思っている。どの仕事もプロとしての意識をもってやっているのならばね。ただし、他人を傷つけたり、貶めたりしなければ、だ。最近はてな界隈で話題になっている「風俗」の話にしても、風俗嬢を見下げる男性たちに私はひどく驚いてしまうのだが。

学生時代に習った江戸時代の「士、農、工、商、えた、非人」という身分制度のことを思い出す。

この身分制度というのは、明らかに職業で区分けをしていて、その上職業というのはもう生まれ落ちたその瞬間、いや、もう生命が生まれた瞬間に決まっているのだ。その家がどの身分制度の位置にあるか、ということによって。

今でもある程度、自営業だったり芸能、もしくは政治家だったりすると将来が決められていることはあるけれどもそれ以外の職につこうと思えばつけるので、この時代のことを考えると怖いなぁと思う。

さて、この身分制度の中にある「えた」というのが、獣の死体処理をしたり皮革製造、あるいは刑の執行を行っていた人たちで、これが現在の部落差別にもつながっているのだけれども、これも一つの職業差別。

つまり「死」=「穢れ(けがれ)」となって、穢れを扱うものもまた穢らわしいという構図につながるのだろうな、と。そこには、恐れが見え隠れしている気がする。よくわからない、だから、怖い。

実際、彼の妻も友人も、身近な人物の死によって彼の「納棺」の儀を間近に見ることで理解するのだ。「死」というもの、そしてその「送り」の儀の意味を。

プライベートな話になるが、今まで私が経験した身近な死といえば母方の母と、父方の父、そしてとても幼くしてこの世を去った従兄弟の男の子の死だ。

最近では私が住んでいる地域でも、わりあい葬祭場で行うことが多いのだけれど昔はほとんどが家で行っていた。

祖父が死んだとき、私はまだ小学生だったのだけれども、北枕でいつも寝ていた布団に静かに横たわっている祖父を今も忘れることが出来ない。私にとってこの時が初めて死を身近に感じた時だった。頭上には真っ直ぐにたてた箸をつきさした山盛りのご飯、鼻に詰められた小さな綿。

いつもの日常の風景の中に、突然死という非日常が入り込んできたその違和感がただただ恐ろしかった。

「おじいちゃんに足袋をはかせてあげて」と(祖母だったか、母親だったか忘れてしまったが)言われても、私はひたすら怖くて祖父に触れることさえ出来ず、姉がそっとその足袋を受け取ってはかせてあげていたのを呆然と見つめていた。そのことを今でも私は後悔している。それほどにこの体験は強烈に私の中に残っているのだった。

そんな風に、昔は死は日常と隣り合わせだったのかもしれない。やはり、葬儀場とかだとまるで他人事のように感じてしまいそうになるから。

かなり話が脱線してしまったけれども、この「おくりびと」も同様に、基本的に家で葬儀が行われる場合に納棺師が呼ばれる。この映画を観ながら、私は祖父の死を思い出していたのだった。

それにしても、本木雅弘が演じる納棺師が、遺族に配慮しながら、遺体の身を清め、死に装束を着させるそのシーンに私は胸を打たれて言葉が出なかった。一連の流れがとても滑らかで、何より美しい。静謐な死。私が死んだら、こんな風に送られたい、とも。

死してなお、生きているように美しく。

涙がとまらぬ映画だった。

とはいえ、お涙ちょうだいでは決してない。山崎努と本木雅弘のかけあいはユーモラスで、上映中何度笑いをこらえたことか。今年観た中では今のところマイベストワン、かも。

ところで、館内に入って見渡してみると、わりと年代層が高かった。見たところ40代以上がほとんど。40代~60代ぐらい。この年代になると、周囲でなくなる人も多くなってきて、自分自身の死について考えることも多くなるからかもしれない。

※うーむ、映画評なんだか思い出話なのだかよくわからない話をだらだらとしてしまいましたが(当初はちょこっと備忘録程度に書いておきたかっただけなのだが)書いていると筆がのってしまって書きすぎてしまう。色んなことが私の頭の中でつながっていくんですよね。連想ゲームみたいだと記事を書いていて時々思う。

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4 納棺師という仕事を初めて知りました。
1 映画の方が断然、面白い

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