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ボストンバッグを持って

「9時半の新幹線、だよね」と、私が心配そうに訊ねると、「うん、まぁ、そうなんだけど。まぁでも知り合いがこの近くで飲んでるし、最悪朝まで彼と飲んでもよいから」と友人が苦笑する。

「今日はもうこのまま東京に戻ろうと思って」とボストンバッグを手にやってきた時はそんなこと思ってもなかったくせに、なんだかまだ学生みたいだよね、と私は少しおかしくなる。考えてみれば、彼と二人で飲むのは初めてだ。いつもは4人、あるいは3人で飲んでいたから。

なぜか彼は私のことを「そらさん」と呼ぶ。

大学時代の友人なのに、おかしいったらない。共通の友人を通して現実社会で知り合ったにもかかわらず、彼は当時私が作っていたサイトをよく訪れてくれていてそちらの印象が強いからなのだろう。だからこそ、恋の話だとかも打ち明けてくれたんだろうと思う。私もまた今と同じようにつまらない繰り言を書いていたから。

まぁ、でも。私は「そら」と呼ばれるのが嫌いじゃない。

寧ろ、本名で呼ばれると私はなんだか照れくさくて仕方がないのだ。まるでそちらが本来の名前ではないかのように時々感じたりするのは、おかしいよね。

「もう一軒、行こうよ」と誘われて、私はくすりと笑い立ち上がる。

このあたりで、出来ればちょっと静かにしゃべれるところは、ということで今度行ってみようと思っていたあるバーへ行くことにした。方向音痴な私だからやっぱり少し迷ったけれどね。仏光寺通りを東へ向かい、高倉通りへ。そう、ちょうど「ルイヴィトン」がある筋。そこには設計事務所「steg.com」が手がけた「匙(spoon)」があり、その横に同じくsteg.comが造った「bar 奥」がある。

そこへ私たちはゆっくりと歩いてゆく…(続く)

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